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カラテ指導顛末記 vol.1 井原降臨

久々の館長日記は、私の空手指導の
過去から現在に至る過程の中で、選りすぐりの風変わりな
エピソードの数々をお話致します。

私が25~26才の時、
その当時、指導していた道場での話。
この道場は土地柄か、外国人の道場生も多く、
性格的にも色々なタイプの方々が稽古していた道場でした。
その道場で指導を始めて半年が過ぎた頃、
私の空手指導の中で、ある意味最も心に残る、一人の人間が
入門してきました。
その男の名前は井原(仮名)。
当時17才。高校生でした。
初めて井原が道場に来た時、私は
これまた随分とバカボンに出てくるおまわりさんに
似ているなぁと、感じたことを今でも鮮明に思い出します。
100%入門したいとの事なので、入門誓約書等に
記入をお願いしました。
井原は学校名記入欄に見たこともない
漢字を書きました。
私は読み方がどうしても分からないので井原に聞きました。
「これ、何て読むのかな?」
『むさし』
「あぁ~、武蔵ね。分かりました」
武蔵の蔵の臣の部分が 匚 になっていたので
聞いてしまったのです。
そして、井原は続けてこう言ってきました。
『ここの空手は俺のパンチ&キックを本気で当てていいんですよね?』
「パンチ・・何?」
『パンチ&キック!』
「あっ、あぁ~、いいよ。思いっきりやっていいからね」
パンチ&キックなんて言ってくると思わないから
思わず聞きなおしてしまったのです。
井原は手の平にグーをバシバシ当てながら
『よ~し!』
と言いました。
これが道場に井原の嵐が吹き始めた瞬間でした。

井原は正式に入会しました。
最初は私がマンツーマンで基本を指導しました。
井原の正面に立ち、まず正拳中段突きを教えました。
「正拳中段突きは相手のミゾを狙います」
『デシっ!(押忍)』
彼の押忍という返事は、デシっ!としか聞こえないのでした。
志村のキャラクターじゃないんだから・・・。

「では、自分のミゾの高さを打ってみましょう。号令掛けますから
私に合わせて動いてみて下さい。打つ時は気合を入れます。
じゃあいきますよ。イチっ!」
『デシっ!』
と言って、彼は私の顔めがけて打ってきました。
「井原君、違うよ。俺の顔めがけてじゃなくてミゾの高さを狙うんだよ。
間違えないようにね。じゃあ、もう一回いくよ。気合入れてー!イチっ!」
『デシっ!』
彼は私の顔をまたもや狙ってきました。
「井原君、また間違えちゃったね。顔じゃないって。ミゾを狙うんだ。
顔は次の上段突きでやるから。」
『デシっ。早く顔のにいきましょう。顔狙いたいっス。』
「井原君、物には順序があるんだ。やりたい事ばっかり出来るわけでも
ないんだよ。分かってくれるよね?」
『早く顔狙いたいっス!』
「・・井原。顔は次だから。顔顔うるさいんだよ。すぐ中段終わらせて
やるから。我慢してやれっ!!」
『デシっ!』

井原は変わっていた。
それに何故こいつは顔ばかり狙いたがるのだ?
私は警戒心を高めつつ指導を続けた。

「では、君のやりたがっていた顔への攻撃、上段突きの打ち方をやります」
『デシっ!!!』
「・・・。上段突きは相手の顔の真ん中を狙います。」
井原『具体的には?』
「クッ。・・・具体的には眉間・人中です」
『デシっ!!!』
「・・・。では自分の眉間・人中の高さを狙って打ってみましょう。
いきます!イチッ!」
『デシっ!』
井原は私の眉間を狙ってきた。
「井原。違うよ。俺の顔じゃないって。自分の顔の高さだよ。
井原は俺より身長低いんだから。」
彼は168cmくらいだった。
「よし!じゃあもう一回いくぞ。俺の顔狙うなよ。いくぞ!イチッ!」
『デシっ!!』
・・・やはり私を狙ってきた。
「だから!俺の顔を狙うんじゃないの!まずは自分の体を基準に
するんだから自分の顔の位置を狙うの。分かった!?」
『デシ。でも前に人がいるとその人の顔を狙いたくなるっス。』
どんな性格だ。
「分かった。じゃあ俺は君の前には立たない。少し横からやるから
それでいいか?」
『デシっ!』

ここまで所要1時間かかった。
1時間で2種目しか終わらないなんて・・・。
一体いつになったら基本全部終えるのだろう。
長い旅の予感がした・・・。

次回は
『vol.2 井原 道場でナンパする』
編をお送りします

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